-
about BD20 by dai onojima(小野島大)
バッファロー・ドーター結成20周年。
もうそんなになるのか、と思う。初めて彼女たちの音を聴いたのは『Shaggy Head Dressers』で、初めて会ったのが『Captain Vapour Athletes』の時だったけど、まるで昨日のことのように思える。それ以来、印象が変わらないのである。見た目も、たたずまいも、話す時の雰囲気も、接してくる態度も、そして音楽も。
もちろん、その間20年の時差がある。技術的な進歩、機材の進化、意識の深化、環境の変化、嗜好の移り変わり。さまざまなものが変わったはずだが、本質的なものは何も変わっていない。それは初のベスト盤『ReDiscoVer. Best, Re-recordings and Remixes of Buffalo Daughter』を聴くとよくわかる。ポップで、キュートで、ストレンジで、茶目っ気があって、自由で柔軟だけど一本筋が通っていて、そしていつも新鮮で刺激的。そんな彼女たちの20年の歩みが、ここに凝縮されているばかりか、2013年の今においても「最新型」として通用しそうな音が鳴っているのである。
何度かのレーベル移籍、さらに過去に在籍していたレーベルのいくつかが消滅している関係で、現在彼女たちのアルバムの多くは入手困難な状態にある。そのうちのほとんど全ての作品は近々デジタル配信される予定だが、20周年を機に代表曲だけでもCDで手軽に手に入れられるようにしたかったのが、今回のベスト盤リリースの動機である。来年にも予定されている新作の露払いという意味もある。
アーティスト主導の企画盤だが、選曲は、BBCやインターFMで番組を持つ英国人DJのニック・ラスコムが担当した。もちろんバッファロー・ドーター自身が選べば違う選曲になっていたろう。選ぶ人の数だけ、選曲案はあるはずだ。どれが正解ということもない。今回のベスト盤に空のCD-Rが付属するのは、そういう意味である。聴く人それぞれが勝手にベスト盤を作ればいいのだ。アーティスト自身が選曲したベスト盤に「反論しようのない正論」のような息苦しさも感じてしまうぼくなど、こういう洒落心は大歓迎だ。たぶんメジャー・レーベルでは実現不可能な企画だったろう。
だが制作が進むうち、大問題が持ち上がった。何曲かのオリジナル・ヴァージョンが権利関係で収録不可能になってしまったのだ。なかには許諾寸前までいって土壇場でNGを食らったのも何曲かあり、長い時間をかけて根気よく交渉してきた彼女らは(念のため申し添えておけば、バッファローにはマネージャーがいないので、こうした交渉もすべて彼女たち自身がおこなう)、大爆発。結局該当曲は新録することになったのだが、本来ならありえないハード・スケジュールでの制作・録音を可能にしたのは、その時の怒りのエネルギーだった、とは彼女らの弁である。
しかしおかげで、次に繋がる(かもしれない)彼女たちの2013年6月の現在進行形の姿もパッケージすることができたのだから、世の中、悪いことばかりでもない。リミックス、未発表ライヴ・テイク、さらにはゲストを迎えての新録音。バッファローの名曲『NEW ROCK』をネタにして・・・というかそっくりそのまま無断借用して自分たちのラップを乗せて発表してしまったKAKATOのふたり(環ROY&鎮座DOPENESS)を逆ナンして(?)、その『NEW ROCK』の新録音に参加させてしまったのが、ケッサクな一例だ。ほかにも盟友小山田圭吾が参加した『Great Five Lakes』、かってのレーベルメイトである日暮愛葉が参加した『Beautiful You』。そしてバッファローが所属していたグランド・ロイヤル・レコード(現在は消滅)の総帥だったビースティ・ボーイズのアドロックことアダム・ホロヴィッツが新たにリミックスした『Peace』のぶっ飛びエレクトロ・ヴァージョンも、ファンには嬉しい。ファンの間でもほとんど知られていないであろう、キャリア初期にリリースされたゲームソフトのサントラ盤『Jungle Park OST』から2曲が選ばれ、そのうち1曲は関西在住の若きトラックメイカーAvec Avecがリミックスしているのも楽しい。『Socks, Drugs and Rock’n’roll』のレアなライヴ・ヴァージョン『Sax, Drugs and Rock’n’roll)』(立花ハジメ参加)、「Cyclic」の未発表ライヴも興味深い。
そして見逃せないのが、CDパッケージに封入される山本ムーグによる書きおろしのバッファロー・ドーター・ヒストリー。さすがにアーティスト本人でなければ知り得ない、書き得ない詳細を極めた内容は、ファンならずとも必読。これだけでもこのベスト盤を買う価値はある(ついでに、私、小野島による曲目解説も封入されています)。彼らは現在、『Weapons Of Math Destruction』に続く新作を鋭意制作中。完成は来年になる予定だが、その内容も、もしかしたらここから見えてくる、かもしれない。
ともあれ、これまでバッファローを知らなかった人はもちろん、熱心なファンも、そうでもない人も、つまりは、過去も現在も未来も串刺しにして、いつでもフレッシュに見せてしまうバッファローのような音楽を聴きたいなら、『ReDiscoVer. Best, Re-recordings and Remixes of Buffalo Daughter』は、必聴ということだ。
2013年7月10日(大谷翔平プロ初ホームランの日)
小野島 大 Dai Onojima